昨年の人間ドックの結果があまり良くなかったからか、先日父は人生で初めての大腸内視鏡検査を受けた。前日から刺激物や消化の悪い食べ物を控え、検査当日は絶食し、10~15分おきに下剤を飲んでいた。
絶食と検査前の憂鬱のせいか、父の顔色は青白く、下剤を飲んではトイレへ行き、部屋へ一度戻っては、何をするためなのか庭に出て、と落ち着きがなかった。
そんな父を見て、大腸内視鏡検査なんて痛いんだろうなぁ、と私はぼんやり思っていたのだが、心配したのはケンケンである。
ケンケンとは我が家に暮らすミニチュアシュナウザーなのだが、いつもならケンケンの前を通りがかるたび「はいはい」や「待ってなさい」と何かしら声をかける父が素通りをする上、落ち着きなく家じゅうを動いている。
動く父の行方を目で追っては、私の顔を見て「クゥン、キャンっ」と吠える。まるで「変だよ、パパが変!どうかしちゃったよ!」とでも言っているようであった。
人の様子をよく見ているなぁと感心しつつ、父の異変について理由までは知ることができないケンケンが気の毒になり、「大丈夫よ、大丈夫」と声をかけつつ背中を撫でる。その間も父は家じゅうを動きまわり、10分から15分に一回は下剤を飲み、また家じゅうを忙しなく移動しトイレへ駆け込む。背中を撫でているくらいでケンケンが落ち着くはずはなかった。
父が目の前を通るたび、私のそばで父の表情をじっと見る。父の姿がなくなると、私に向かい「クゥン、キャンっ」。私が「はいはい、大丈夫よ」と言うと、「違うよ!大丈夫じゃない!変なんだよ!」とでも言っているのか、「キャンっ」と吠えて、私の手を噛む。
あまりの異変に怖くさえあるのだろう、と可哀そうに思っていた私は、噛まれても「今日は仕方がない」と思っていたのだが、あまりに噛みつづけるため、最終的には叱ってケージに入れてしまった。
父が出かけたのは昼をとうに過ぎてから。父が家を出たことで家の中が静かになって、ようやくケンケンも落ち着いた。
穏やかになったケンケンを再びケージから出し、ふたりでソファでごろごろと寛ぎながら、夕食のことを考える。大腸内視鏡検査の直後は、やはり消化の良いものしか食べないほうがいいそうなので、夕食にはお粥と鱈の水炊きを作ることにした。
買い物を済ませ、鍋を沸かしていると、玄関の扉が開く音がした。ケンケンの耳がピンと立ち、玄関からは何やら荷物をどさっと置く音。
「はいはい、嬉しいの。お散歩は後でね」
いつもの明るい父の声。その様子から、結果を聞かずとも悪くはなかったことがわかる。ホッと安堵しつつ、「おかえりなさい」と振り向くと、両手にトイレットペーパーの袋を二袋も抱えた父が笑顔で立っていた。
父の買ってきたトイレットペーパー。元々ストックが切れていたわけではないので、物置にしまわれた。当然母からは「なんでこんなに買ってきたのよ」とお𠮟りを受け、父はしゅんとし「いっぱい使うから」と答えていた。
きっと今日一日トイレにこもって、大量にトイレットペーパーを使用したからなんだろうが、大腸内視鏡検査の後、医師に「問題なさそうです」と言われたことで胸を撫でおろし、浮かれた足取りでトイレットペーパーを購入している父の様子を想像すると、私は可笑しくてたまらなかった。
◆おかゆのレシピ
●材料
- お米…1合
- 水…1.2L~1.4L
- 塩…ふたつまみ
●作り方
- お米を洗い、しっかりと水気を切る。
- 大きめの鍋に米と水を入れ、中火にかける。ふつふつと白い膜のようなものが浮いてくるまでは触らない。
- 湯が沸いて白い膜のようなものが浮いてきたら、米が鍋底に焦げ付かないようにしゃもじなどでやさしく混ぜる。
- 弱火に切り替え、菜箸1本分くらいの隙間を開けて蓋をする。
蓋はなければなしでよい。 - 30~40分そのまま弱火で放置する。
- 仕上げに塩で味を調えたら完成。
揚げワンタンや、ササミ、梅干し、塩昆布などを添えて召し上がれ。
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