仕事へ行けなくなってからだったか、お酒を飲まなくては眠れないようになったのは。
神経質な性格のためか、これまでも眠れない期間は何度かあった。それは基本、二週間から数か月続く。全く寝ないわけではない。布団に入って2時間、3時間もすると眠っている。朝まで眠れない日は稀だった。
十代の頃は、そのことに対してあまり疑問を抱くことはなかった。自分は神経質だから仕方がない、と思っていたのだ。
しかし辛いのは確かだ。二十代になって、睡眠について調べるようになると、布団に入って1時間2時間も眠れないのは「不眠症」と言うのだと知った。
性格とは関係なく、布団に入っても眠れないことは改善されるべき事象なのだと知ると、この寝つきの悪さに対するストレスが一段階、いや二段階以上上がった。
眠れない理由を探して苛立つようになり、それすらに苛立ち、もう何も考えるまいと酒に逃げた。
仕事へ行けなくなった直後が一番ひどかった。毎日、大音量でアニメを垂れ流し、酒を飲んだ。眠ってしまうまでずっと。
だから目覚める時はいつも座ったままで、無意識に折れた首が痛んでいた。床には焼酎の空き缶が散乱し、何日分も溜まっているので、その日に何本飲んだのかも分からない。
作った記憶のないインスタント麺が、テーブルには置いてあり、白いテーブルを汁が汚していた。箸は一本がテーブルに、もう一本は床に転がっていたりする。散々だった。
この期間に私は12kgも太った。
あれから1年半近くが経過し、私は二度目の誕生日を迎えた。依然部屋は汚いが、少なくとも焼酎の缶は転がっていない。
アルバイトだが仕事も決まった。少しずつ生活を立て直していく希望が見え始めたところで、問題になったのが不眠だ。
いや、問題として感じた事象は不眠ではないのだが(頭の鈍さや、身体の怠さ、やる気の起きなさ等)、それらの問題は全て不眠に端を発していると感じた。
そこで不眠を改善することを決意したのだが、ここで私の睡眠環境を見てみよう。
布団に入るとネガティブな考えばかりが浮かぶため、毎晩垂れ流しにされているアニメ。
目を瞑っても、テレビの青白い光がまぶしく、テレビに背を向ける深夜0時。
アニメの音が消えた瞬間に目を覚ましてしまい、『続きを再生しますか?』の文字に返事をするためリモコンを探す深夜2時。
習慣化した飲酒を辞められず、アルコールの分解が始まると、身体の怠さで目を覚まししばらく寝返りを打ち続ける深夜3時半。
寝ているのか目覚めているのか曖昧なまま、カーテン越しにわずかな光が差し込み始めた頃、やっと眠りにつく。
しかし長くは眠れない、せいぜい3時間。基本は2時間もすると目を覚ます。
ここで私の睡眠を最も妨害しているものを考えてみた。間違いなく『夜中のアニメ』だ。目を瞑っても、瞼の隙間から強い光が差し込んできてうるささを感じていた。
だが音がないのは、不安だ。CDは母の集めていたクラシックくらい。声がしないと、自分の声で頭の中を埋めてしまう。
Youtubeだ。スマホなら画面は小さいし、少し離れた場所に置けば光も気にならない。好きな芸人さんのトークを2時間分プレイリストにまとめ、眠るまで垂れ流すことにした。
続いて私の睡眠妨害をしているのは、言わずもがな飲酒習慣だ。これはすぐには改善できそうにない(改善しようとしても酒の存在が気になって、より眠れなくなる)ので、酒以上に水を飲むことと、お酒を飲んだ後すぐにはベッドに入らないことを決めた。
飲酒習慣に関しては、安眠が叶った暁には自然とお役御免となるだろう。
最後に、小さいことであるが、あまり早くに布団に入らないことを決めた。ただでさえ眠れないのに、早くにベッドに入って「眠れない」経験を増やすのは良くない。せめて23時を過ぎてから布団に入ることにした。
さて、この習慣を始めて早3日。なんてことだろう。朝、眠っていた感覚がある。
これまでは寝たのか寝ていないのか、いまいち判然としないまま昼を迎えていたが、きちんと眠ったと実感を持って朝を迎えられた。
夜中に2,3度起きることは変わっていないし、起きたまま1時間近く寝返りを打つこともあるが、朝が近くなると深い睡眠をとれていると実感できるのだ。
2日目まではそれでも怠さがあったが、3日目の今日は寝起きでストレッチをし、ステッパーを15分行い、そのままパソコンに向かうことまで出来た。
なんてことだろう。睡眠、万歳!
とはいえ、まだ睡眠の質改善計画は始まったばかり。日々の睡眠状況や日中の生活に何かしら変化があれば、随時更新しようと思う。
そういえば、睡眠に関して「そんなに悩むならなぜ病院へ行かないのか」と聞かれそうだが、一度行ったことがある。休職していた頃に寝つきの悪さを相談し、睡眠導入剤を処方してもらった。
小さな錠剤を一粒飲むと、段々と四肢の力が抜けていき、呼吸の間隔が緩やかになっていった。ぼんやりする頭の中で、身体が自分の意志とは無関係に睡眠へと向かっていく感覚が恐ろしく感じてしまい、翌日以降は一切飲まなかった。
睡眠導入剤は飲まない。もう目覚めることはできないのでは、とそこはかとない不安を感じながら眠るのは懲り懲りだ。いや、もしかしたら、眠りたいからと睡眠導入剤を処方してもらっておきながら、自分がすんなり眠れそうになると、死を意識するほど恐ろしくなるという自分の精神状態にこそ問題があるのかもしれない。
まぁどちらにせよ、かくかくしかじかで医者へは行っていないし、頼らずとも睡眠を改善していけそうで安堵した。
ただ不眠症の気がある場合、大抵は自然とは治癒しないそうなので、基本は病院に罹るべきなんだろう。

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