先週末、妹が婚約者を連れて実家へ挨拶にやってきた。妹の婚約者には数年前に一、二度会ったことがある。長身で愛嬌のある顔立ちをしている好青年だ。
顔合わせというフォーマルな空間が得意でない私は「全員で出迎えると婚約者が緊張するだろう」という名目で一人外出していたのだが、対人関係が不得意な父が「もっと話せたらよかったなぁ」と独り言ちるくらいに穏やかな会となったようだった。
その翌日、母とふたりで買い物に行っていた時のこと。
「Kちゃん(妹の名前)、もしかして袋の中身を見ていないのかしら」
ふっと母が言った。聞くと、結婚式の準備や新婚生活に向けた同棲開始など、様々なイベントが重なったせいで金欠だと悲鳴を上げている妹に、インスタント食品を持たせたのだと言う。ビーフシチューやカレールー、シチューなど、好きな具材と煮詰めるだけで簡単に調理でき、尚且つお腹も膨れるラインナップだ。
妹カップルの懐を案じた自分の気持ちが届いていないことを懸念し、落ち着かない様子の母の隣で、実家への挨拶で疲れ切って袋の中身など気にする余裕もなくベッドに倒れこむ妹の姿が容易に想像された。
「念のため、袋の中身確認するよう伝えたほうが良いかもね」
それから数日経った、昨日の晩のこと。妹から母に連絡があった。
「今日の夕ご飯に、カレーとビーフシチューを作ったよ!」
母の手渡したレトルトのルーはキューブ状に固められたもので、ひとパックに8人前入っている。当然、味が混ざっては困るから、カレーとビーフシチューはそれぞれ別の鍋で調理したことだろうが、生まれてこの方、カレーとビーフシチューを同時に作るなど聞いたことがない。
妹と婚約者の間で、意見が相違したのだろうか。それにしてもカレーとビーフシチューを同時に作るなど、ハンバーグとミートローフが同じ食卓に並んでいるのと同じくらい奇妙奇天烈に感じる。
「片方は冷凍したんじゃない?」
と母は言っていたが、それならばどちらか一方を一つの鍋で大量に作って、余った分を冷凍するほうがよっぽど楽だろうに。
贅沢にもカレーとビーフシチューを半分ずつご飯にかけて食べている妹カップルの様子が鮮明に思い浮かび、手のひらを仰ぎながらも口元が緩んだ。

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