父のクセ|施錠編

父は人一倍こだわりが強い人だ。本人の中でルールが存在し、それにそぐわないと父は拒絶とも取れるほど強い拒否反応を示す。

私達が幼少の頃と比べれば、還暦を迎えた今は随分と落ち着いたものの、その人一倍強いこだわりは健在である。

そしてそのこだわりは時折、私達家族の悩みのタネになったり、笑いのネタになったりする。

最近のネタはもっぱら、父の施錠に関してだ。

もう何年前だろう。我が家の玄関扉は、取っ手を挟んで上下に二つの鍵が付いているのだが、その上の鍵が使用不可になった時期がある。

母が仕事へ行く時に鍵を閉めたのだが、どうも鍵が劣化していたらしく、鍵の先っちょの部分が折れて鍵穴に詰まってしまったのである。母がそのことに気が付いたのは仕事を終えて帰宅した時だ。

それから鍵屋に連絡したので、修理してもらえるのは、数日後になった。

鍵穴は無事に直ったものの、その数日の間に、我が家の父には新たなクセがついていた。とてもシンプルなクセだ。下の鍵しか閉めなくなった。

ものの二日程度だったように記憶しているが、それでも父の新たなこだわりを招くには十分な期間だったらしい。

あれからもう数年経っているが、未だに父は下の鍵しか閉めない。

ただ、少し変化があった。

自分が外出する時は、下の鍵しか閉めないのだが、自分が在宅している時は上の鍵だけ閉めるのだ。以前は、外出時も在宅時も鍵を閉める時は下だけだったので、これはひとつの変化である。

しかし、上の鍵を閉められるなら、なぜ下の鍵を閉めないのだろう。父のこだわりは、謎が多い。


外出から戻り、父が在宅していそうなら上の鍵だけを開け、外出していそうなら下の鍵だけを開ける。どっちも閉まっているときは、最後に鍵を閉めたのが母もしくは私の時だ。一緒に暮らしている三女は、鍵を持ち歩かない。

施錠。日常のちょっとした行為にもこだわりが発生し、時折ルールが変化する。迷惑なこだわりもあるけれど、ルールの変化を見つけられた時はちょっと誇らしい気持ちになる。

寒い季節が過ぎ去った後の道端のタンポポや、燕の再来、歩道をゆっくり移動するガマガエルに気づけたときのような、誇らしい気持ちに。

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