父の趣味

 私は父が自分のために出かけたり買い物をしたりしている姿を見たことがただの一度もない。強いて挙げるとして「タバコ」くらいのものである。車が好きなようで、長年車のメーカーに勤めていたのだが、カーモデルを集めることも、レースを見に行くこともなかった。

 私や次女が子供の頃は、私達のために計算ドリルや暗記カードを作るため、何時間も部屋にこもっていたり、夏休みになれば私達の自由研究を一緒になって考えてくれるような子煩悩な父で、それこそ子供と遊ぶのが趣味な様子だった。

 毎週末、私たちをアスレチックやプールへ連れて行ってくれ、自宅にいる時は妹とはボール遊び、私とは将棋やオセロをしてくれた。

 しかしそれも私たちが小学校低学年の頃までで、そこからは私と父のすれ違いもあり、家庭からはどんどん笑顔が消え、一時は父が家を出て行った。私が成人して少しして、また父と私の間にも会話が生まれるようになり、家族で出かけることも増えたが、私と父の出来事から、父は教育に関わることを母に禁止されてしまったため、子供と関わる趣味も遠のいてしまったようだった。

 友人もあまりいない印象で、これまで忘年会の季節以外に父がひとりで出かける場所と言えば、スーパーかホームセンター、実家くらいのものだった。

 そんな父も今年65歳で仕事をリタイアしたのだが、私達家族が懸念していたことがある。それは「父の日中の時間の使い方」だ。これまでの土日、テレビを見るか、犬と散歩に行くか、家事をして母に邪魔にされるか、しかしていなかった父がどのように長い時間を過ごすのだろうか。趣味もない父は途端にぼけてしまいやしないか。そこが家族で共通した懸念点だった。

 しかし蓋を開けてみれば、そんな心配をよそに何やら忙しそうである。2日3日に1回は隣町のスーパーまで自転車で向かい、これまでコツコツを貯めていたエコポイント(ペットボトルやアルミ缶のリサイクルでもらえるポイント)を使って近所の銭湯に通うなど、案外楽しそうに過ごしているではないか。

 あまりじっとしていることが得意でない父なので、いつもせかせかと動き回っており、少しうるさいくらいである。

 相変わらず家事のやりすぎで、母に文句を言われているが、何かをやらずにいることが苦手な父のこと。文句を言われたところで、家事をやめることもない。無職のくせして暇にかまけて酒を飲んでは、特別ほしくないゲームやカップ麺を買ってしまう私とは大違いだ。

 お金をほとんど使うことなく、毎日を忙しそうに過ごせる父を、私はすこし見習うべきだろう。

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